08. 01. 03
07. 01. 11
あったかい部屋 ⑤
あ 誰か来たみたい
玄関まで お出迎えにいかなくちゃ
誰だろう このオジサン
僕の名前を知ってるみたいだけれど
随分 親しげに話しかけてくるけど
誰だっけ このオジサン
あ どっかで聞いた 不思議な言葉を しゃべっている
あ イカサマ韓国語だ
あ このオジサン 兄ちゃんだ!
また 髪伸ばして 変な服着てる
相変わらず センスねーな 兄ちゃん
ハードゲイと 間違われるよ そんなカッコしてると
兄ちゃんは 覚えているのかな
まだ 僕が小さかった頃
ダイクマってお店の 牢屋に入れられていた頃のこと
兄ちゃんは 僕を見つめて ずっと立ち尽くしてたよね
ずーっと 僕を見つめて それから フッといなくなって
しばらくして また 戻ってきたんだ
その間に ATMから お金を下ろしてきたって 知ってるよ
すごく 不器用に僕を 抱き上げてくれて
「オレに ちゃんと 飼えますかね」って店員を困らせてたよね
やっぱり ダメだったね 兄ちゃん
でも 兄ちゃんの 家族は とっても あったかいから
兄ちゃんの 弟になってあげてもいいよ
でも 約束してね
兄ちゃん いつも寒そうだから 時々 戻ってきてね
この あったかい部屋に 時々 戻ってきてね
( あったかい部屋 完 )
07. 01. 10
あったかい部屋 ④
あ 兄ちゃんから 電話がきたみたい
でも 遅れるのかな
母ちゃんが 料理の準備が出来てるのにって 怒ってるよ
母ちゃんは 時々 体の具合が悪くなって
寝込んでいるけれど
そんな時でも 僕には 優しくしてくれるよ
僕は ノドが乾くと 母ちゃんに おねだりするの
水道のトコに行くと 母ちゃんが 蛇口をひねってくれて
僕は 流れる水を飲むんだよ
母ちゃんは 兄ちゃんの小さかった頃の話を
たくさん 聞かせてくれるんだ
ヒヨコのピーちゃんとか ウズラのピーちゃんとか
ツバメのクロちゃんとか 犬のニコルちゃんとか
全部 お兄ちゃんが連れてきて 母ちゃんが世話をしたんだって
「だからね お兄ちゃんが ジロー君を飼ってるコトを聞いた時
いつか ここに来るような気がしてたのよ 」 って 笑ってたよ
前科が あったんだね・・・
時々 母ちゃんは 「我孫子のジローです」って言いながら
兄ちゃんに電話してるのに
兄ちゃんは いつも留守電だって 言ってたよ
兄ちゃんは 本当は キムチを食べながら
ジンロを ラッパ飲みして
韓国映画を見ながら オイオイ泣いてるんでしょ
居留守ばかりしてると 僕がバラしちゃうぞ
たまには 電話をしてあげなよ 兄ちゃん
07. 01. 09
あったかい部屋 ③
姉ちゃんから 電話がきたみたい
今日は 姉ちゃんも来るんだ
母ちゃんと 父ちゃんが 旅行に行く時
僕は 姉ちゃんの家に行くんだけれど
そこには ララちゃんって 仔犬がいるんだよ
父ちゃんの家では 僕が王様なのに
姉ちゃんの家では ララちゃんが 王様なの
まだ 赤ちゃんなのに とっても凶暴なんだ
姉ちゃんはね 時々 ピアノを弾いてくれるんだよ
兄ちゃんは ギターをガチャガチャ弾いて うるさかったけど
姉ちゃんのピアノは とっても 綺麗なんだよ
でも 姉ちゃんが 怒ってたよ
兄ちゃんが なかなか 調律に来てくれないから
ピアノが可哀想だって
姉ちゃんはね よく音楽もかけてくれるんだよ
そんな時 僕は 眠くなってしまうんだ
時々 兄ちゃんの夢も見るんだよ
でも 最近は ずっと兄ちゃんと会ってないから
だんだん 兄ちゃんの顔を 忘れてきちゃったみたい
もしかしたら 兄ちゃんと会っても 誰か分からないかも知れない
07. 01. 06
あったかい部屋 ②
だんだん 料理が出来上がってきたみたい
いい匂いが してきたよ
父ちゃんは 僕のために
カメラと プリンターを買ってきて
たくさん 写真を 撮ってくれるんだよ
棚の上に たくさんあるアルバムの中に
兄ちゃんの知らない 僕が写っているんだよ
兄ちゃんのアルバムの中には 小さかった僕しかいないでしょ
父ちゃんは 時々 自転車に乗って
手賀沼とか 神社とかを 撮影しに行くんだよ
電車に乗って 少し 遠いトコにも 行ってるみたい
そうして 写真を アルバムに貼って
僕にも 見せてくれるんだ
いろんな話を 聞かせてくれるんだ
僕は この家から 出ないけれど
父ちゃんのおかげで
いろんなトコに行った気分になれるんだ
それでね 分かったんだ
この部屋は とてつもなく広いけれど
みんな どこかに 帰るトコがあって
そこは とっても あったかいの
兄ちゃんの帰るトコも あったかいのかな
07. 01. 05
あったかい部屋 ①
今日は 朝から
母ちゃんと 父ちゃんが
御馳走を作ってる…
きっと 兄ちゃんが 帰ってくるんだ!
兄ちゃん ひどいよ
僕を 迎えにくるって言ってから
もう 3年も経ったんだよ
最初は 毎日 ベランダの上で
広すぎる部屋を 眺めながら
待ってたのに
・・・・・・・・・・・・・・
ここに来てからね 初めての夏に
僕は 大冒険をしたんだ
ベランダに セミ君が来たから
友達になろうと思って 追いかけていったら
3階のベランダから 落っこっちゃったんだ・・・
真っ暗な 芝生の上で
ナニが起こったのか 分からなくて
すっごく怖くて 淋しくって 泣いちゃったんだ
でもね しばらくして
母ちゃんが探しにきてくれて
また 戻ってこれたんだ
そうしたら 兄ちゃんも小さかった頃
ベランダから見える 大きな木の上から
落っこちた話を 聞いちゃったよ
いつも いばってた兄ちゃんだけど
本当は おっちょこちょいで ドジなんだね
05. 09. 17
広すぎる部屋 :追記
「広すぎる部屋」を書いてから
すでに 1年半が 過ぎようとしている
ジローは まだ 広すぎる部屋に 行ったまま、、、
杣が 実家にジローを預けて 半年ほど経った ある日
杣の留守電に こんなメッセージが届いていた
「もしもし 我孫子のジローです
お兄ちゃん 元気にしていますか?
こちらは 僕も おばあちゃんも おじいちゃんも
みんな 元気にしています
たまには 僕に会いに来て下さい またね」
杣の母親が ジローになりすまして 話している
というより このメッセージの言わんとしていることは
「ジローは すでに 我が家のもの」
という宣言でもある
杣は 「やられた!」 と思ったが
まあ それも良いか と 納得もしている
杣の実家では 18年飼っていた犬が その春に逝ってしまった
両親は かなり落ち込んでいたが
ジローを預けてから 再び 元気を取り戻していた
(その犬も 杣が高校時代に拾ってきた子犬だったが、、、)
父親にいたっては デジカメとプリンターを買い込み
毎日 同じようなジローの写真を撮っていて
杣が帰省する度に そのアルバムを見せようとする
今でも 時々 ジローに会いに行くが
ジローは 「このオヤジ 誰?」と言わんばかりの
警戒心丸見えの視線を 投げかけてくる
だが 「ヤー セッキヤ! ヤインマー! ネガ ヌグンジ モラッ?」
と韓国語で脅すと 思い出すらしく すり寄って来る
つくづく なんちゃって韓国語で ジローに語りかけていて
よかった と思う
だが ジローは 数年後に 杣のアジトに戻ってくるだろう
それは 杣の両親が 他界する時だろう
願わくば ちょっとでも長く 「その日」が 先になりますように
(広すぎる部屋 完)
05. 09. 14
広すぎる部屋 ⑩
母さんという名の人間は 僕を抱き上げながら
「ジローちゃん淋しいの?でも大丈夫よ
お兄ちゃんはすぐに迎えに来てくれるからね」
と言ってくれた
僕の父ちゃんは ここでは
お兄ちゃんと呼ばれていた
その代わりに
父ちゃんに良く似た おじちゃんがいる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから半年が経つけれど
父ちゃんはまだ迎えに来てくれない
だいたい
この部屋が広すぎるからいけないんだ
こんなに広くなければ
父ちゃんは ずっと一緒にいてくれたのに
僕は「広い部屋」を 「広すぎる部屋」
という名前に変えてしまった
(完)
05. 09. 13
広すぎる部屋 ⑨
「もうちょっと辛抱してるんだぞ。もうすぐ着くからな」
父ちゃんは 僕を抱いたまま
階段を上がって 別の扉の前に立った
すると 知らない人間がニッコリとして
「まあジローちゃん、良く来たわね」と
歓迎してくれた
僕は別の人間の部屋の中に入って
いろいろ探検を開始した
すると いつの間にか僕のゴハンの皿や
トイレが運び込まれていた
そして父ちゃんは その人間に
「じゃ 母さん しばらくジローを頼むね
また出張から帰ってきたら連絡するから」と話していた
そして父ちゃんは僕を抱き上げて
「ジローいい子にしてるんだぞ」と言って
今来た扉を開けて どこかへ行ってしまった
僕は扉の前に行って
「父ちゃーん、父ちゃーん!」と叫んだが
父ちゃんは戻って来なかった
05. 09. 12
広すぎる部屋 ⑧
ある日 僕はその部屋の中に入ることができた
なんだか窮屈なせまい箱に入れられたまんまで
箱の窓から見えるその部屋は
他のどの部屋より広かった
だって 部屋の中に空まであるんだもん
父ちゃんは箱を持ったまま
自動車に乗った
すると その自動車の窓から見える景色は
次々に流れていった
僕は 父ちゃんがどうして
ずっとこの部屋にいるのか
やっと分かった
だって とっても楽しいんだもん
僕は やっとこの部屋の名前をつけることができた
「広い部屋」
そう とーっても広い部屋だ
でも この部屋はどこまで続くのかな、、、