11. 04. 23

深夜のクレッシェンド

大量のモモイロキネマ所持で
逮捕寸前まで 追い込まれていた平賀君を
保証人というかたちで 警察署まで引き取りに行った


まあ 入手経路を明かさなかったのはエライが
警察に通報された経緯が まったくマヌケである
モモイロキネマを見ていて 鼻血が止まらなくなり・・・


大量出血で 救急車で搬送され
病院から 警察に通報されたらしい・・・


あれから 数週間がたち
久しぶりに 平賀君が
フラリと アジトに訪れた


「あれ 先輩 その紫の板 なんですか?」
『ああ これか 携帯だよ』
「また 新しいのに変えたんですか?」


そうである
私は 昨夏 世界一カッチョいい携帯と称して
LYNX SH-10Bを 平賀君に自慢していたのである


「今度は ついに アイフォンですか?」
『まさか! あれはテレビが見れないからな』


というより Iフォン Iパッド Iポッド
私にとって これらのそっくりな名前は
区別することが 難解な類に属するのだ


サルでもないのに
アイアイアイアイ 
アップル社の気がしれない


『ドコモのメディアスだ!』
「ちょっと 見せてくださいよ! うわー軽い!」
『世界いち 軽薄な機種なのさ』
「うわ! 先輩に似合うわけだ!」


デコピン 3連発!


「イテテ 冗談ですよ!」
『冗談になってないから 不愉快だ!』
「あ 僕の作ったアプリ 入れといてあげますよ」


平賀君は こう見えて 発明家である
源内翁の血をひいてるはずなのに
時々 妙なモノを 発明してしまうのだが・・・


『君 携帯持ってないのに アプリを開発してるのか?』
「ええ パソコンで作ってますから」
『で どんなアプリなのかな?』


彼の話は 無駄に長いので 要約すると次のようなものである


タッチパネルで操作するタイプで
持ち主以外の指紋でタッチされ
30分以内に 持ち主がタッチしないと・・・


盗難とみなされ 自動的に警察に通報
GPSで 場所まで特定され 即逮捕!
前科者の場合は 窃盗者の名前まで通報されるという!


『す すごいじゃないか! でかした平賀!』
「アップル社の陰謀の応用でしかないんですけどね」
『なんじゃ それ?』


彼によると タッチパネル方式の携帯は
持ち主と 指紋の情報が 自動的に登録され
そうした個人情報を CIAに売って 莫大な利益をあげているらしい


なので アメリカでは お尋ね者は
決して アイフォンを使わないし
ボタン式の携帯を所持しているという


「うわー スマートフォンって サクサクなんですね!」
『大富豪も入ってるぞ!』
「テトリスもインストールしていいですか?」


子供のように はしゃぎながら
平賀君が 私の携帯をいじっていると
深夜だというのに アジトのドアがノックされた


『ん? 誰だ こんな時間に?』
「彼女じゃないですか? 僕 帰りますよ」
『あいつなら 赤いワーゲンが駐車場にあるはずだが・・・』


平賀君は ブラインドから 駐車場を眺めて 絶叫した!
「せっ先輩! パトカーが3台も停まってます!」
執拗に ノックの音はクレッシェンドしていく・・・


あっ


私は 平賀君の手にある携帯を見て 
頭を抱えてしまった
彼は ゆうに30分以上 私の携帯で遊んでいたのである・・・


  


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11. 04. 06

空豆の夢

「どうした その恰好は! 宝くじでも 当たったのか?」
『違いますよ 先輩! 新製品が 売れてるんです!』
「君の発明品を買う愚民が この国にいるとは思えないが」
『ところが どっこい すっとこどっこいなんですよ!』


後輩の 自称発明家の平賀君は 夜分にフラリと アジトを訪れる
いつもなら 平成の金田一 耕助よろしく
ボサボサ頭に ロジャースにも売ってないような服を着ている


その服装のセンスたるや ある とか ない どころではない
超オシャレなケンタ曰く “平賀は服飾界を愚弄している”
てなくらい 裸の方がマシだろう ってな様相なのである


もっとも 裸で 夜分に 我がアジトに訪問されては
もっと最悪な風評に さらされる危険があるからにして
私は 何も 口を出さないのだが・・・


だがしかし 今夜は 素晴らしかった
先日 ユニクロで見かけた シャツを着ているではないか!
もっとも 普通の人並みになっただけだが それだけでも奇跡である!


「本当に 人に売ってよいモノなんだろうな? 犯罪者にはなって欲しくないんだが」
『当たり前ですよ! 先輩にも ヒトツ 持ってきましたよ』
「また オレで試すつもりか?」
『とんでもない!ささやかなプレゼントです!』


「なんだ この 空豆は! こんなの食わんぞ!」
『マメじゃありませんってば! イヤフォンです!』
「イヤフォンだって 食わんぞ!」


彼は 説明が長いので 要約すれば こんなモノである
あらかじめ 希望の素材をインプットした イヤフォンをして眠ると
希望通りの夢が見れる というシロモノらしい


てなワケで 早速 その夜から 私はイヤフォンをして眠りについた


・・・・・・・・・・・・・・・


そこは 広大なサバンナ! 
キリンが 優しい瞳で 樹葉を ムシャムシャ むさぼれば
ライオンが アメショーのように キュートな昼寝を むさぼっている!


おおお


そして 憧れの 巨大なゾウが 近づいて来た
やあ! 私は手を挙げて 挨拶をする
ゾウ君も 鼻を高々と上げて パフォーン!


その 強靭な鼻で 私を抱き上げると 背中に乗せてくれた!
燃費を気にしてるのかと 思うくらい ゆっくりと ノッシ ノッシ
動物たちが集う 水辺まで運んでくれた!


おおお
サイだ! インパラだ! ワニだ!
弱肉強食もなく みんな仲良く ゴクゴクゴク・・・


・・・・・・・・・・・・・・・


マカオのカジノで 
大好きな 大富豪というカードゲームに 大勝した私は
次の港へ出航する 大型のクルーズに乗り込んだ


瀟洒で洗練された シャンデリアの輝き
ちょっと 調律してみたくなるような 美しい響きのピアノ
そして クリスタルのシャンペングラスに なみなみとジンロを湛えて


私は ケンタの作ってくれた スーツに 紫のシャツ
隣の ドレスで着飾った マドモワゼルが うっとりと話かけてくる
「ムッシュ どうしたら あんなに 大富豪が強くなれて?」


そこへ ベレー帽をかぶった ヒゲのオジサンが
手に “写るんです” を持って にこやかに 話かけてきた
「しゃ し ん  い ち ま い  い か が で す か?」


やたら スローリーなしゃべりに もしやと思い 問うてみる
『君は もしや あの有名な 戦場カメラマンじゃないかね?』
「は い  で も  こ ん や は  船 上 カ メ ラ マ ン で す が」


・・・・・・・・・・・・・・・


『どうでしたか 先輩?』
「エクセレント! おかげで 毎日 夜が来るのが楽しみになってるよ!」
『それは よかったです』
「ん? どうした 元気がないな?」


服装こそ ユニクロからシマムラに変わった 平賀君だが
先日と比べると いまいち 覇気がない
『ええ 返品が相次いでいて 参ってるんですよ・・・』


「何故に こんな偉大な発明品を返品する輩がいるのかね?」
『実は 一番の売れ筋ソフトに クレームが出てきて・・・』
「ふむ で その 一番の売れ筋とは なんぞや?」


どうやら この商品の一番の客層は 健康な男子だそうで
ゆえに そのソフトたるや モモイロキネマらしいのだが
平賀君が使用した 源泉は どれも モザイク or ボカシがあるようで


夢の中の いい場面で モザイクがかかった合体区域が
そうとう びびるらしく それがクレームに つながってるという


ふぅん そんなことか


「それなら これを使いたまえ」
私は 金庫から 分厚いファイルを取り出した
そこには 数百枚に及ぶ DVDが収容されている


平賀君は 鼻血をださんばかりに 喜んで
ファイルを 大切そうに抱えて 夜の帳に消えていった
私は その夜 8月の朝鮮蹴球団との 公式戦で
ハットトリックを決める大活躍の夢を 満喫した!


しかし それから半年経つのだが
平賀君は 一向に 返しにきてくれない・・・
もしや・・・

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10. 04. 11

オメメトロン

「先輩 お疲れ様です! 出張が続いていたようですね?」
『おう ようやく一段落したんだよ』
「で お土産は?」
『あん? んなもんねーよ』


夜分に 遠慮なく 突然訪問してくるのは
ケンタか あるいは この平賀君しかいない
その夜も 怪しげな袋を持参しながら ニコニコしてやってきた


「あれ? あの袋 なんです? 大分って書いてあるけど」
『気にするな ダイブって名の 100円ショップだよ』
「あれは何です? ういろう って書いてあるけど」
『あん? ああ あれは最近できた韓国料理店だよ ウマイって意味だな』


なかなか こいつは鋭い・・・
まだ 配り終わってない土産袋を 目ざとく探し出し
イチイチ 遠まわしな 土産の催促をしてきやがる


「そういえば ケンタ先輩から聞きましたけど 先輩って不眠症んなんですって?」
『ああ 足の先から 髪の1本1本にいたるまで 重度の不眠症だ』
「やっぱり本当だったんですね! よかった!」


何が よかったもんか!
しかし 彼は そう言いながら 
袋からボンベらしきものを取り出した


『ああ それ知ってるぜ ヘリウムだろ? 声が高くなる』
「やだなー先輩 早とちりしちゃ!」
『じゃ 高濃度酸素か?』


こう見えて (見えてないと思うが) 
彼は 発明を趣味とする クリエイティブな青年なのである


「これは 不眠症にバッチリ効く 新しい睡眠導入ボンベですよ!」
『まさか それを オレに試せ なんて言うんじゃねーだろーなー』
「大丈夫です 実験は成功してますから! 問題ありませんよ」


『何が入ってるんだ? そのボンベに』
「新発見の睡眠ホルモン オメ・メトロンです!」
『オメメ トロン?』


「違います 勝手に言葉を区切らないで下さい! オメ・メトロンです!」
『怪しいネーミングだなー 何なんだ? そのオメメ・トロンは!』


長ったらしい 彼の説明を簡略化すると
どうやら 人間は あくびをする時に
睡眠ホルモン オメ・メトロンを排出しているらしい


なので そのオメメトロンを濃縮すると
副作用なく 自然な眠りにつけると主張する


「まー 騙されたと思って 吸ってみてくださいよ! どうせ寝る時間でしょ?」
『そんな時間に来るヤツの 怪しい発明に つきあってられるか!』
「歴史は夜つくられるって言うじゃないですか!」


ちなみに 私は その言葉を
“溺死は夜作られる”と
大人になるまで 勘違いして覚えていたのだが・・・


で 彼の言われるまま 思い切り オメメトロンを吸ってみた!
次の瞬間は 朝だった・・・


どうやら 彼のオメメトロンの効力は 
人類の溺死 じゃなかった 歴史を変えるかもしれない!
などと 朝陽の中で 密かに喝采を送っていた


すると ドアーの音が カツカツなる・・・
ん? こんな時間に ケンタか?


「あー アモスさん! 出張お疲れ様でした!」
『おう ケンタ! ちょっと待ってろ! 土産があるから!』
「え! 本当ですか? まさか またゴリラの鼻糞とかじゃないでしょうね」
『安心しろ 今度は 猿の鼻糞だ!』


そう言いながら 部屋に戻ったが
昨夜 あったハズの 大分と名古屋の土産が
すっかり なくなっている・・・


あ・・・


私は 昨夜の 平賀君の来訪を ケンタに説明した
どうやら ケンタも 私と同じく
平賀君が 土産を かっさらっていったと結論を出したようだ


「平賀のやろう!」
ちなみに ケンタは 食べ物の恨みは怖い


「アモスさん そのボンベ 見せてくださいよ」
『あいよ』
ケンタは ボンベの匂いを クンクン クンクン


「これは クロロホルムですよ!」
『なんだそりゃ? クロアチアのホルンか?』
「クロロホルムも知らないで 今まで生きてきたんですか?」


まあ なんだか知らないが
それから ケンタに30分ほど説教され
おかげで ゴミ出しが間に合わなくなってしまった・・・


帰りがけ ケンタは凄い剣幕で
平賀君から 土産を奪い返すと息巻いていた・・・


ああ 私は不安である
奪い返した土産の お粗末さをケンタが知ったなら・・・
急にオロオロした気分になったので 
私は また オメメトロンを大きく吸い込むことにした


 

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09. 12. 11

変人よ

昔 調律学校で 非常勤講師をしていた頃
一人の学生が カセットテープをくれた
「僕の フェーバリットです」


彼は 70年代後半の生まれなハズなのに
何故か 河島英五やら 中島みゆきやら
私の世代の音楽ばかりで 不思議な気分だった


「僕 オヤジ趣味んなんですよ」
とはいいつつも 彼はイケメンで 調律も学科もトップクラス
ただひとつ 字が恐ろしく汚いのと 漢字が書けないということを除けば
バリバリの イケてる青年だった


『ん? 五輪真弓に こんな曲あったっけ?』
「あ これ有名じゃないですか 恋人よ って知らないんですか?」
『あほ この漢字は 変人よ って書いてあるじゃないか!』


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


私は 周りが思うほど 自分を変人だとは思っていない
何故なら 私の周囲には 
私なんかより 遥かに優秀な変人が たくさんいるからである


ふた月ほど前だったか
そんな変人達と 杯を酌み交わす機会があった
変人達の名前は ケンタ と うらら という


ケンタは 車の免許を取り始めた頃
すごくストレスが溜まるので
車の中に 木魚を積んでいたらしい


「なんで 木魚なの?」
『いやー あの音聞くと 心が落ち着くと思いましてね』
「で 落ち着いた?」
『それがですね 車の中の木魚の音って あまりに面白くて』


どうやら 面白くて笑ってしまって
効果は違ったが ストレスが溜まらないという結果は
功を奏したらしい…


で 話は展開していき


「でもさ 信号待ちとかで 隣の車の人が見たら
 びびっただろうね 
 木魚叩いてるドライバーに」


ガハハハハ ゲラゲラゲラ


「ビフォアー アフターでさ
 恐い顔してた運転手が いきなり木魚を叩いて
 笑顔に変化していくって なんだかね…」


ここで 二人の変人は 爆笑しすぎて
ケンタは お茶を気管の中に入れてしまって 激しくむせ
うららは 笑いすぎて 涙流したまま 鼻血を噴出してしまった!


「ほーら 木魚のバチが当たったんだぞ」


私は このような変人達のおかげで
自分が なんてマットウな人間なんだろうと
ヒシヒシと感じることができる


もし あなたが 周囲から変人扱いされているなら
それは あなたが変人なのではなく
変人の友人が いないだけなことである


持つべきものは 優秀な変人の友である

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09. 09. 09

セレブな朝食

コンサートなどの仕事の時
私は スタッフの食費を
全て 支払うことにしている


もちろん 密かに ギャラから
差し引いているのだが・・・


昨日の仕事は 朝6時代に出発したので
現場で コンビニに入り
気に入ったものを 選んでもらって
まとめて レジで支払うつもりだった


ところが 後輩は 
「いえ 自分で払います」と 言い放ち
スタスタと 隣のレジに行ってしまった


しまった ギャラから 差し引いていたのが
バレてしまったのだろうか・・・


後輩の手には オニギリと お茶だけだったので
これは 安上がりで 助かったと
内心 イヒヒと思っていたのだが・・・


私が レジで会計をしてもらっていると
隣のレジの 店員と後輩のやりとりが
聞こえてきたので ふと 耳をそばだてた


後輩 「すいません 細かいのが無いんですけど いいですか?」
店員 『ええ 構いませんよ!』
後輩 「じゃ これで お願いします!」
店員 『え? えええ?』


私は てっきり 1万円札あたりで
支払っていると 思っていたのだが・・・


店員の 驚愕ぶりが尋常じゃなかったので
後輩が 握り締めている お札 じゃなかった
小切手を見て 私も え?えええ? と唸ってしまった!


500


パンパンに膨らんだ 後輩の財布を見ながら
携帯より薄い 私の財布から 
ギャラを 思い切り ケチってやったのは 言うまでもない

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09. 08. 30

シャーミン化現象

ウーパールーパーなる生物が 一世を風靡していた頃
夕方のニュース番組で 幸田シャーミンは
ビッグな女性歌手の来日を こう のたまわった


「女優で歌手の シンディー・ルーパーさんが 今日 来日しました」


少年だった私は このニュースを聞いて 小躍りして喜んだ!
シンディー・ルーパーだ? ギャハハハハ!
勿論 シャーミンは しらっと すぐに訂正していたのだが


Photo


先日 栃木は さくら市なるところへ仕事へ行った
東北道を北上してる頃 後部座席で 後輩がぼやいていた
「先輩 知ってます? 野菜が高いんですよ! ナスが1本58円もするんですよ!」


これは 遠まわしに ギャラの値上げの催促かと思ったので
『ふうん ナスなんて 栄養ないから 買わない方がいいぜよ』と
巧みに かわしてやった フフフ


しかし よく聞いてみれば 最近 後輩は
イオンの宅配サービスを利用し どうやら 
ナス 1本でも 配達してくれることを 誇示しようとしていたことが判明した


『お前! たった1本のナスを 配達させたのか!』 と 私がキレてみせたら
「あ いや 他の買物のついでに ナスも1本だけ 頼んだような気がしてきました」と
しどろもどろになり始めた クックックッ!


で 仕事を終えて インターに帰る道すがら 農産物直売所があり 
「寄ってくれなかったら ギャラを値上げする」と 騒いだので
寛大さを装いながら 実は その場に置き去りにしてやろうと 車を駐車場に止めた


しかし 直売所は 野菜好きな私にとっても 魅力的である
車を止めると 後輩の存在など忘れて 店へ歩いていった
すると そこは パラダイスだった!


素晴らしく新鮮な野菜が 素晴らしい量にもかかわらず
ありえねーくらい 安い値段で 売っていたのだ!
乾物の 椎茸 しめじ エリンギだって 対馬なみの安さである!


数時間前 後輩が 58円もすると騒いでいたナスだって
ピチピチなものが 10個くらい袋に詰められ 100円で売っている
私は 『ナスには ポリフェノールやナスニンが豊富なので・・・』
などと しどろもどろになりながら 買物カゴに つっこんだ


後輩も狂喜し レジのおじさんに
「ナスは 私の街では 1個 58円もするんです!」と
あまり嬉しさは伝わらないような感想を 熱心にトークしていた


直売所のおかげで 私は ギャラの値上げ交渉から 免れ
東北道を南下しながら 後輩は ナス談義を始めた


「先輩は ナス どうやって 食べるんですか?」
『ナスも しし唐も 生で味噌をつけて食う』
「はぁ? ナスって 生で食べられるんですか?」


フッフッフ 私は こう見えても東洋の種馬と呼ばれてきた男である
あまたいる 過去形の彼女の中に 農家出身の娘がおり
彼女は 夏になると 食べても食べても 食べきれない野菜を
ナスも含めて 生で 食べていたという話をしてくれた


なので 当時 私も ナスを生食し始め
大量のフレッシュな ポリフェノールを摂取し
アフリカ人並みの視力を 維持してきたのだ
最も 視力は維持できたが その娘には フラれてしまったのだが


そんな 甘い感傷を ブチ壊すかの如く
後輩は おいしいナスの食べ方を 一方的にレクチャーし始めていた
なんだか まるで 私が ナスの料理を知らないかのように 思えてきたので
とっておきの 横着かつ美味い ナスの調理法を 教えてやった


『まず 生のナスの皮を剥いてだな それを レンジで加熱するんだ
 それを そばつゆの素につけて 冷蔵庫に入れて
 仕事から帰ってくると すっげー美味い 焼きなすが完成してるのだ!』


どうだ 参ったか! と 言わんばかりに 私は 鼻の穴を膨らませてみせた
もちろん 後部座席にいる後輩には 私の鼻の穴の膨張率までは
知らしめることは出来なかったのだが・・・


・・・・お待たせしました ここまでが 序文です


「でも先輩 生のナスって 皮剥くのが 大変じゃないですか?」
『ナニこいてげすか!(遠州弁) ピーローで剥けば 簡単ズラ!(遠州弁)』
「は? ピーロー? それって ピーラーのことじゃないですか?」


ん? そうだったか?


私の16分休符な間を 後輩は見逃さなかった
「ピーローって何ですか?ピーローって! ギャハハハ!」
あ 英語では ピーラーだったか フランス語では・・・ などと弁解したかったが
後輩は ノバでフランス語を勉強していたことを 突如 思い出した


『うん まあ ピーラーとも言うかな 最近では・・・
 まあ それで 皮は簡単にむけるのさ ハハハ』


しばらく 涙を流しながら 大先輩のミスを 嘲笑していたが
なんだか 釈然としない・・・
あれ ナンだっけ? ピーロー ピーロー


「あ! 思い出した! ピーローは枕のことだったっけ! ハハハ!」
素晴らしく 切り返したつもりだった
ちょっとだけ 自分って ナンて頭がいいんだろうと ウフンとなった


しかし そんな勝利気分は 32分休符の瞬間だけで 
後輩は アウフタクトで言い放った
「先輩 それは ピローです! ピーローじゃなくて ピローです!」
『あれれ? ピーロートークって 言わなかったっけ?』


くそ・・・
サルマタとサスマタの区別もつかない奴に
ここまで 侮辱されるなんて・・・


あまりの悔しさに 佐野インターで 
ラーメンを食ってる後輩を そのまま 置いてこようかと思ったが
インターで置き去りにしても こいつは すぐに帰ってくるだろうと 思い直し
いつかきっと 帰ってこれない秘境で 遺棄してやろうと誓うのであった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


若い頃は こんな 言い間違い 皆無だったハズである
だからこそ シャーミンの 「シンディールーパー」は
嘲笑できたワケで・・・


そうか 大人になるって こういうことなのか
あの 遠い夕暮れ シャーミンも
こんな 打ちひしがれた気分だったのだろうか・・・ 


すまん シャーミン
今なら あなたの気持ちが 痛いほど よく分かる!


私は カタカナの記憶力が 異常に悪い
正直に告白すると 幸田シャーミンの名前を入力した時
何のためらいもなく 幸田シャーマンと書いていた・・・


投稿する前に気付いて 本当に良かった
そんな 今日この頃である


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08. 09. 20

昼下がりのポッカリ

先日 ケンタと仕事をした
午前の仕事が終わり 次の仕事は夕方
ポッカリと空いた 昼下がり 


んなもんで 早めに 夕方の仕事場に車を停め
娯楽施設へ赴き 遊戯に興じることにした
ポッカリと空いた 昼下がり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


まずは エアホッケー


お話にならない
所詮 体育系調律屋と 文化系楽器製作者である
ケンタ惨敗 ポッカリと敗北


反射神経を 必要としないものでないと
フェアーに 対戦できない!
その抗議に もっともだ と思い 遊戯を変える


Photo


パターゴルプ 


ありえねーコースだったので ルール改正を繰り返し
終わって見れば やはり 体育系調律屋の勝利
ケンタ惜敗 ポッカリと敗北


下半身を 必要としないものでないと
フェアーに 対戦できない!
その抗議に もっともだ と思い 遊戯を変える


Photo_2


ダーツ


機械の使い方が分からず バーテンのオッサンに 指南を請う
オッサン 機械の使い方と共に 体育会系調律屋の筋肉を 褒めちぎる
「あれは ホモだね」 『そうですね』


筋肉を褒められなかったケンタは コントロールも悪かった
まるで5度圏図のような的に 刺さらない 刺さらない
ケンタ劣敗 ポッカリと敗北


頭脳を 必要とするものでないと
フェアーに 対戦できない!
その抗議に もっともだ と思い 遊戯を変える


Photo_3


ビリヤード ナインボール


ここにきて 二人は互角な対戦に白熱
「晩飯 賭けるか」
『今度の飲み会にしましょう』


10回やって 勝負がつかず 延長戦に突入
ケンタは 頭脳と技術で 着実に上手くなっていく
調律屋は 運と勢いだけで 着実に敗色が濃くなっていく


Photo_5


運が尽きたとは このことだ
調律屋のショットは ありえねートコで 玉が止まりやがった
ケンタ勝利 ポッカリと圧勝


「次回は ボーリングで勝負だ」
『いいですよ でも また ビリヤードやりましょう』
近いうちに 調律屋の財布は ポッカリとカラッポになりそうだ

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08. 09. 11

サルマタ

スーパーの下着売場で (もちろん男性のだよ) ふと 思い出した


しばらく前のことだ
仕事に向かう車の中で 
いつものように 機関銃のような 後輩のトークが炸裂していた


「先輩知ってます? 鹿が出て 高速道路が通行止めになったの」
『知らん』
「テレビでやってたんですけど 警察がサルマタで鹿を 追いかけ回してたんです」


この時点で オチは想像がつくだろう
がしかし ここは イチイチ 後輩の会話の通りに
絵を想像して欲しい


『サルマタなのに なんで警察って わかるんだ?』
「そりゃ 警察は 誰だって分かるじゃないですか」


この時 杣は サルマタを履いた人間が
鹿を 追い掛け回している絵を 頭の中で描いていた


『だって 警察はサルマタで 鹿を 追いかけてるんだろ?』
「警察は 制服着てるから すぐ分かるじゃないですか!」


この時 杣は サルマタを履いて
上着だけ 制服の警察を 思い描いていた


『で どうやって 捕まえようとしてたんだ?』
「だから サルマタで捕まえようとしてたんですよ!」


心なしか 後輩は イライラしている
しかし 杣は 制服の警察が サルマタを手に持って
鹿を追い掛け回している絵を 想像していた


『サルマタで どうやって 鹿を 捕まえるんだ?』
「だからー きっと 鹿の首とかを 押さえ込もうとしてたんですよ!」


この辺りで ようやく 理解できた


『お前 それは サルマタでなく サスマタじゃないのか?』
「なんです? サスマタって」
『棒の先に Uの字の金具がついて 首ねっこを 押さえ込むやつだよ』


「そうです それです サルマタです!」
心なしか 後輩は 声が明るくなった
『あのなー サルマタってのはな モモヒキのコトだぞ』


「いやらしー 先輩 だから ゲイとか サブちゃんとか 呼ばれるんですよ」
心なしか 後輩の声には 嫌悪感が漂っている
『あほ サルマタで 首ねっこ掴む方が よっぽど変態だと思うんだが』


甚だしい勘違いの挙句 
人を変態呼ばわりするヤツである


いっそのコト 勘違いさせたまま
他人の前で もっとハジをかかせればよかったのだが
こちらも ついムキになって 正しい国語を 教育してしまった・・・


そういや 韓国の飲み会の時 
後輩は 会長に向かって 「先輩はホモなんです」と ぬかしやがった


おかげで 冷めた視線が5人
今まで以上に 親しく抱きついてきたヤツが一人いた
彼とは 別れぎわに 激しく抱き合い 
そのまま 道路にぶっ倒れた記憶がある・・・

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08. 08. 30

クロックナー

「セ ン パ ル ロ グ ソ・・・ センパルノグソ・・・ 先輩ノグソ?」
『あ?いつオレがノグソしたトコ 見たんだよ!』
「え! 先輩 ノグソしたことあるんですか?」
『ねーよ! 大地に有機肥料を贈ったことは あるがな』


後輩は セミナーの時間割のハングルを 必死になって解読していた


『ちなみに これは チェンバロクジョ つまり チェンバロ構造 と書いてあるのだ』
後輩は いまだに S と J と CH の子音の違いが理解できていない
「へー クロックナー (なるほど)」


子音の区別は出来ないが 調子のいい会話言葉は すぐに覚えてしまった
韓国人と 笑顔で会話をし 意味など 全く理解していないのに
「へー クロックナー」 などと言っては 盛り上がっていたのである・・・


ヘンデルが オレの友人なら 
鍛冶屋ではなく
調子のいいウララ という題名に させたことだろう


「ガ ヤ ノ モ ク チャン・・・」
『チャン でなく サン だ  ちなみに それは オレの名前だ』
「え? 先輩 韓国では モクチャンって言うんですか? ギャハハハ!」


ニワトリは 3歩 歩けば モノを忘れる というが
後輩は ニワトリ以下である
1歩も歩いていないのに 3秒前の記憶が 葬られている


ま それでも 一生懸命 ハングルを理解しようとする姿は
なかなか どうして 健気なものである
すでに 4年前のオレより 会話が出来るレベルである


そんなワケで 心の中では がんばれよ と エールを贈っていた


159


東大門運動場駅の 地下通路は 天国だった
運動場が近いせいか スポーツショップが たくさん並び
ユニフォーム屋が 100メートルに渡って 軒を並べていたのだ!


店員に聞けば 名前と背番号を 入れても 2万ウォンというではないか!
狂喜乱舞し さっそく スペインのユニフォームを 購入しようと財布を 取り出した
ハシャいでいたせいか 隣に後輩がいたことなど すっかり忘れていた・・・


っち!


『あ 君には 今回 世話になったから 君もユニフォーム まさか 欲しいか?』
言葉のひとつひとつに 社交辞令と分かる単語を 巧みに配置し
イントネーションも 顔色も 本意でないことを 露呈しながら聞いてみたつもりだった


「はい」


まさか 肯定されるとは 思っていなかった
しかし このくらいで 負けては いられない
なんてったって 2万ウォンがかかっているのだ!


『あとで アメリカンドッグを おごってやっても いいんだが・・・ どっちにする?』
後輩は 食べ物に弱い! ユニフォームより 食べ物を選ぶことを想定して 聞いた
「それも 御馳走になります」


アイゴー


ジローズが再結成されることがあったら
「遠慮を知らない子供達」 という曲をかけば 大ヒットすると
アドヴァイスしてやりたくなった


ええい! ままよ!


仕方なく 財布から 4万ウォンを出し 後輩のユニフォームまで 買うことになった
しかし 後輩は 名前はハングルは嫌だといい
背番号など いらない と ダダをこねる


『じゃ 英語なら ウララは ULALAの方が カッチョいいぜ!』
「イヤです URARAにします」
世界で一番 センスがいいのは 自分だと信じて疑わない 二人である


『分かった じゃ そうしよう ・・・ところで ユニフォームは どれにする?』
「この 白いやつが かっこいいです」
『おー イングランド代表か うん なかなか いいセンスしてるじゃないか』


横に 後輩がいなかったら オレは スペインの他に
もう1枚 ユニフォームを 作ろうと思っていた
黒いポルトガルか 白いイングランドで・・・


なもんで まあ いいか という気持ちになった


「ところで先輩 イングランドって どの国にあるんですか?」
『ロンドンだよ』
「オー クロックナー!」


え? つっこみ無し? 納得しちゃうワケ?
スカンジナビア半島の西 とか ドーヴァー海峡の北 とか
もっと 分かりにくい説明も 用意していたのに・・・


どうやら こいつは ハングルの勉強の前に
地理 じゃなかった 小学生の社会科から
勉強し直した方が よさそうである


もちろん アメリカンドッグなど おごらなかったことは
言うまでもない


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08. 07. 28

暑い午後に思い出した 寒い夜の話

考え事をしながら 駅前のロータリーを 歩いていた
たぶん 歩行速度は カタツムリと さして変わらなかったと思う
数メートル先を ヨワイ50くらいのオジサンが 横切った


考え事をしながらも その光景は 視界に入っていた
オジサンは 蕎麦屋のノレンを上げ 
次の瞬間 ガッシャーンと もの凄い音を立てて 後退してきた


杣と目が合い 照れくさそうに 独りゴチた
「おかしいな 前は 自動ドアだったのに・・・」
そして 今度は 手動でドアを開け 蕎麦屋に消えていった


暑さのせいだろう


その蕎麦屋は 前から手動ドアである
『あー そうですね 確か大正時代は 自動ドアだったと 祖父も言ってました』
などと返したかったが 気の毒だったから やめておいた


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


言い訳と 負け惜しみの 境界線は微妙である


しかし どちらも 自己防衛の成せる業であり
言い訳か 負け惜しみ と 受け取られた時点で
その言動は 功を奏さないどころか 反対の印象を残すに留まる


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あれは 2003年の 韓国ツアーのことだった
ソウルで コンサートがハネた後
演奏チームは打ち上げへ 楽器チームは宿舎へと 引き上げた


ソウルのソワレなコンサートは 20時くらいに開演する
なもんで 終演後 楽器を車に積み込み 宿舎へ向かうと 
23時近くになってしまう


そして 宿舎の門限が 23時半だった


杣は 後輩を 宿舎の玄関先で下ろし 
車を駐車場へ 置きに行った
門限には どうやら 間に合ったハズだ


そして 冷たい11月のソウルの夜風に吹かれて
宿舎の入り口へ 小走りに行ってみると
なんと まだ 後輩が ドアを ウンウンと押していた


「先輩ダメです どうやら門限を 過ぎてしまったようです ドアが開きません」
『うそ! まだ11時半になってないぜ』
「でも 鍵がしまって ドアが開かないんです! 野宿です!」


後輩は 悲痛な声で そう言いながら 
なおも ドアを ウンウンと 押していた
気のせいか 涙目になっている


『ドア 引いてみたら?』
「は?」
そして 後輩がドアを引くと 扉は スンナリと開いた


よく見りゃ ドアに 「PULL」と プレートが貼ってある
『パボ! ここに プルって書いてあんじゃねーか!』
「え? プルって プッシュじゃないんですか?」


さて 諸君
この言葉は 言い訳なのだろうか
それとも 負け惜しみなのだろうか


せめて 自己防衛な 言い訳か 負け惜しみなら 救われるが
恐らく 完全な勘違いというか 常人の想像を絶する思考なだけに
笑いや 怒りよりも 寒気がしてきたことを よく覚えている

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