空豆の夢
「どうした その恰好は! 宝くじでも 当たったのか?」
『違いますよ 先輩! 新製品が 売れてるんです!』
「君の発明品を買う愚民が この国にいるとは思えないが」
『ところが どっこい すっとこどっこいなんですよ!』
後輩の 自称発明家の平賀君は 夜分にフラリと アジトを訪れる
いつもなら 平成の金田一 耕助よろしく
ボサボサ頭に ロジャースにも売ってないような服を着ている
その服装のセンスたるや ある とか ない どころではない
超オシャレなケンタ曰く “平賀は服飾界を愚弄している”
てなくらい 裸の方がマシだろう ってな様相なのである
もっとも 裸で 夜分に 我がアジトに訪問されては
もっと最悪な風評に さらされる危険があるからにして
私は 何も 口を出さないのだが・・・
だがしかし 今夜は 素晴らしかった
先日 ユニクロで見かけた シャツを着ているではないか!
もっとも 普通の人並みになっただけだが それだけでも奇跡である!
「本当に 人に売ってよいモノなんだろうな? 犯罪者にはなって欲しくないんだが」
『当たり前ですよ! 先輩にも ヒトツ 持ってきましたよ』
「また オレで試すつもりか?」
『とんでもない!ささやかなプレゼントです!』
「なんだ この 空豆は! こんなの食わんぞ!」
『マメじゃありませんってば! イヤフォンです!』
「イヤフォンだって 食わんぞ!」
彼は 説明が長いので 要約すれば こんなモノである
あらかじめ 希望の素材をインプットした イヤフォンをして眠ると
希望通りの夢が見れる というシロモノらしい
てなワケで 早速 その夜から 私はイヤフォンをして眠りについた
・・・・・・・・・・・・・・・
そこは 広大なサバンナ!
キリンが 優しい瞳で 樹葉を ムシャムシャ むさぼれば
ライオンが アメショーのように キュートな昼寝を むさぼっている!
おおお
そして 憧れの 巨大なゾウが 近づいて来た
やあ! 私は手を挙げて 挨拶をする
ゾウ君も 鼻を高々と上げて パフォーン!
その 強靭な鼻で 私を抱き上げると 背中に乗せてくれた!
燃費を気にしてるのかと 思うくらい ゆっくりと ノッシ ノッシ
動物たちが集う 水辺まで運んでくれた!
おおお
サイだ! インパラだ! ワニだ!
弱肉強食もなく みんな仲良く ゴクゴクゴク・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
マカオのカジノで
大好きな 大富豪というカードゲームに 大勝した私は
次の港へ出航する 大型のクルーズに乗り込んだ
瀟洒で洗練された シャンデリアの輝き
ちょっと 調律してみたくなるような 美しい響きのピアノ
そして クリスタルのシャンペングラスに なみなみとジンロを湛えて
私は ケンタの作ってくれた スーツに 紫のシャツ
隣の ドレスで着飾った マドモワゼルが うっとりと話かけてくる
「ムッシュ どうしたら あんなに 大富豪が強くなれて?」
そこへ ベレー帽をかぶった ヒゲのオジサンが
手に “写るんです” を持って にこやかに 話かけてきた
「しゃ し ん い ち ま い い か が で す か?」
やたら スローリーなしゃべりに もしやと思い 問うてみる
『君は もしや あの有名な 戦場カメラマンじゃないかね?』
「は い で も こ ん や は 船 上 カ メ ラ マ ン で す が」
・・・・・・・・・・・・・・・
『どうでしたか 先輩?』
「エクセレント! おかげで 毎日 夜が来るのが楽しみになってるよ!」
『それは よかったです』
「ん? どうした 元気がないな?」
服装こそ ユニクロからシマムラに変わった 平賀君だが
先日と比べると いまいち 覇気がない
『ええ 返品が相次いでいて 参ってるんですよ・・・』
「何故に こんな偉大な発明品を返品する輩がいるのかね?」
『実は 一番の売れ筋ソフトに クレームが出てきて・・・』
「ふむ で その 一番の売れ筋とは なんぞや?」
どうやら この商品の一番の客層は 健康な男子だそうで
ゆえに そのソフトたるや モモイロキネマらしいのだが
平賀君が使用した 源泉は どれも モザイク or ボカシがあるようで
夢の中の いい場面で モザイクがかかった合体区域が
そうとう びびるらしく それがクレームに つながってるという
ふぅん そんなことか
「それなら これを使いたまえ」
私は 金庫から 分厚いファイルを取り出した
そこには 数百枚に及ぶ DVDが収容されている
平賀君は 鼻血をださんばかりに 喜んで
ファイルを 大切そうに抱えて 夜の帳に消えていった
私は その夜 8月の朝鮮蹴球団との 公式戦で
ハットトリックを決める大活躍の夢を 満喫した!
しかし それから半年経つのだが
平賀君は 一向に 返しにきてくれない・・・
もしや・・・
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