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11. 03. 17

春を連れてきた少年

さすがは 駐屯地のある街である
朝から ヘリコプターが行き交う 行き交う
何も出来ない路傍の凡人と違い 援助へ活躍してくれている


昼が近づく頃になると
ヘリのラッシュアワーも終わる
のどかな いつもの ささやかな喧噪が戻った


すると どこからともなく
ホー ホケキョ
お! うぐいすだ! 春だ 春!


しかし 耳をすませていると
なんだか おかしい
初鳴きにしては マニュアル通りな美し過ぎるフレーズ


なんといっても インテンポ
同じ間隔で ホーホケキョ キョロキョロキョロ・・・
台所の窓を開けて 音源探索が始まった


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


およその位置がつかめたので
紫のシューズを つっかけて 出かけてみた
近づくにつれ 大きな声で ホーホケキョ


それは セイムスの前にある
自動販売機から 流れていた
なーんだ 


みれば お金を投入したままになっていて
ジュースのボタンを 押さないかぎり
ホーホケキョ キョロキョロキョロが 鳴き続ける


なんだか がっくりした気分と
ちょっと 騙された 腹立たしさが
マティーニのレシピの比率で 湧き上がった


なので 返却レバーを 下げようとすると
自動販売機の横から 少年が顔を出した
「おじさん だめだよ 春にしてるんだから」


どうやら この少年が 
春をプレゼントしようとしてくれているようだった
私は 返却レバーを下げ ウグイスに別れを告げた


少年の眼の高さまで かがみこんで言った
『君が 春を連れてきてくれたんだ』
「うん」


『ほら 耳をすませてごらん
君のうぐいすのおかげで
他の小鳥たちも 歌い始めたよ』


ヘリの音が止んだ 閑静なパレットには
様々な小鳥の声が あちこちにカラフルに
少年は 青い空を眺めて 初めて笑った


『春は 必ず来るからね
冬が厳しければ 厳しいほど
春は やさしくなれるんだよ』


「うん」


『ニッポンの春は みんなでひとつになって作るんだ
必ず 春はやってくるからね
君が一番最初に 春を作ってくれたしね』


「うん」


少年と同じ 青い空を見上げた
先週と同じ 青い空を見上げた
どこにいても同じ 青い空を見上げた


しばらくして 私は 左手で 少年の頭をなでた
右手を強く握りしめ ゆっくりと立ち上がった
少年達の為にも 大人がしっかりとしないと


キビスを返して 家に帰ろうとすると
少年の声が 私の背中に 響いてきた
「おじさん ジュース代返して それ僕のだから」


っち もう少しだったのになぁ
そして 私は 猛然とダッシュした
紫のシューズを ちゃんと履いてなかったことを 後悔しながら

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