コリアン閑話 ⑪
25日 日曜日
いよいよ 決戦の本番日!
朝一番でホールへ
約束の時間より 少し早く到着したものの・・・
ここは 舞台監督の機嫌をとらねばならぬ
約束の時間を 数分過ぎてから 監督へ挨拶
「アニョハセヨ」
楽器を ステージの中央にセッティングして
早速 メンテという戦闘の開始!
まずは レジスター
レバーは無く 楽器の横に突き出たレジスターを
押したり 弾いたりして 切り替えるタイプ
そして 8フィートのレジスターが固定できないタイプなので
4フィートを操作する度に 8フィートのレジスターも動いてしまい
首を吊ったり 音が出なくなったり・・・
これを 強引に固定して
ひとつひとつのジャックのツメの長さと強さを
弦に合わせて 速攻で調整
更に 鍵盤の深さを変更するため
固定式のジャックレールを
なんと 木工作業で削って調整
芝姫が ソロリハーサルの為 会場入り
タッチをチェックしてもらって 更にメンテは続く
最後に スタガリング
ネジなしの プラスティックジャック・・・
削るのは容易ながら つけたす作業が・・・
とにかく 最後の残された時間は使いきり
戦闘終了・・・
かなり 安定して 弾きやすくなってくれた・・・
ありがと 楽器君
仲良くなれたよね?
本番前の調律は 開場時間まで
なので 本番までに 30分ある
韓国では 開演ギリギリまで 調律させてくれないホールも多々あるんだ
そして ジっとモニターを睨む
5分後・・・
やっぱり ステージの照明が落ちた
あれほど 事前に伝えたのに
この舞台監督は わざと照明を消す
今回は マネージメントの人に来てもらって交渉
どうにか 照明はつけてもらえた・・・
舞台監督は 最高潮に御機嫌ななめ
彼の気持ちは分かるけど
こちらも 良いコンサートの為に ここは譲れない
そして 本番
静寂の密度が高まったステージへ
私は 大きく拍手を響かせて
二人を 送り出す
イタリアの歴史を辿るプログラム
静と動 明と暗
過酷な温湿度の中 二人の演奏は 素晴らしかった!
休憩調律
後半の途中
それまで ムスっとしていた舞台監督が
私の傍に来て 話かけてきた
『素晴らしい演奏家達だな』
「ええ 私も この二人の演奏は初めて聴きますが 感動してます」
『オレも感動した!』
あれだけ 不機嫌だった舞台監督が
音楽の力で 別人に変身してしまい
ニコニコしながら 私に話し続けてくれた
熱い拍手に バロックでなく ロックのような聴衆の熱狂に
2曲のアンコール!
まだ弾きたがっている芝姫!
全てが終了し 収束したバックステージで
舞台監督は 『お疲れさん』と
笑顔で 私に握手を求めてくれた
音楽って 本当に凄い!
そして この空間に立ち会えた運命に感謝した
ミステリーな幕開けだったのに
本当に 皆が頑張って 最高の結末が待っていてくれた
これだから 調律屋は たまらない!
困難を越えて これだけ満たされる仕事
音楽へ貢献できる仕事
・・・・・・・・・・・・・・
たぶん 気がはっていたのだろう
全てが終了して 私の体は発熱を開始した
帰国して 今日に至るまでも まだ 時々 発熱している
でも 今回の訪韓の 劇的な終幕も含めて
私の中では 幾つかの変化が生じている
まるで 生き急いでるかのように 幾つもの課題に挑戦し始めている
響美深親(きょうみしんしん)
私は このツアーを終えて 疲弊しきっているにも関わらず
この新しいプロジェクトも 本気で取り組み始めている
芝姫に 音楽に 韓国に ノームノム感謝ハムニダ!
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