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10. 05. 06

ある男の話をしよう

これは 作り話である
リアリティーを出す為に
私の最近のシチュエーションに あえて かぶらせているが


これは 作り話である


ある男がいた
彼の職業は調律師
彼は韓国へ出張へ出かけた


彼は 出張三日目に とある女子大にメンテへ行った
宿舎から 地下鉄を乗り継ぎ
初めて入る女子大の 広大なキャンパスを眺めていた


ふと 便意をもよおした


彼は 便意をもよおして その排出までのタイムリミットが
とても短いことを 人生を通して よく把握していた
それで 広大なキャンパスの坂を上りながら ハバカリを探した


しかし 不幸なことに この日は日曜日
多くの建物が 施錠してあり
簡単には 入館することが許されない


目標の音楽棟まで まだ 数百メートルある
しかし タイムリミットが迫っている
見回すと ひとつの棟に 警備員がいた


彼は 警備員に トイレを借りたいと尋ねた
すると 警備員は 訝しながらも
廊下の先の 階段の下にある と答えてくれた


彼は 臀部の筋肉を総動員しながら
少し あやしい足取りで その方向へヨチヨチ 向かった
しかし そこにあったのは 女子便所であった


男の矜持より 大事故回避を選択した男は
誰もいないことを確認し 
生涯 初めてとなる 女子便所へ入り 腰かけた


至極のヒトトキである


と そこへ キャーキャー言いながら
女子学生が 二人 トイレへ入ってきた
バタン バタン と 二つの扉が閉まる音が聞こえた


さて 今のうちに ズラかるか
いや もし こちらが扉を開けた時
学生も扉を開けて 男性が侵入していたことがバレたら・・・


国際問題にはならないだろうが
日本大使館へ通報され
下手すれば 強制送還
最悪 二度と訪韓できなくなる


彼は 徳川家康になった
二人の学生が 出て行くの待ち
その後 自分が出た方が 安全だと判断したのである


果たして
その結論は 正しかった
すぐに ひとつの扉が開いた音がした


しかし もう一人は まだ 座っているようである
やがて 先に出た学生が 座っている学生に話かけていた
彼は 僅かに 韓国語を解す


「どうしたの?」
『昨夜 おばあちゃんが ハンバーグを作ってくれて』
「それで お腹が痛いの?」
『そうなの とても痛いの』


それから 二人は 扉越しに
たわいも無い会話を 延々と続ける・・・
彼は メンテの約束の時間が迫っており・・・


しかし 出るに出れないのである


たっぷり 10分くらい経って
ようやく 二人は キャッキャッ言いながら
女子トイレを出て行った・・・


彼は 耳をすませた
トイレの外を 歩く足音
近づく音が無い時間に達し 脱兎の如く 脱出に成功した


建物の入り口では
あまりにも長い トイレ滞在に
警備員が 不審な顔で彼を見つめていた


オチは無い
なぜなら これは
作り話だからである


ある男の
ウンがつかなかった
作り話だからである


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