仮住まい調律師
その昔 偉大なるカリスマ調律師の
カバン持ちをしていた 先輩から
こんな エピソードを聞いたことがある
カリ調 お客さんの家に行き
工具カバンを忘れたことに気づいて 一言
「今日は 見に来ただけです」
そして 堂々と 帰っていったそうである
また ある時
カリ調 調律を始めたが いくらやっても 割り振りが上手くいかず
ミュートを外してしまって 一言
「今日は ここまでです」
そして 堂々と 帰っていったそうである
・・・・・・・・・・・
私は 1年ぶりに お伺いした お客さんの家で
ピアノを パラパラと弾き チェックした後
パネルを空けて さあ 調律 ということで 工具カバンを開けた
すると そこには お菓子がいっぱい・・・
ぎっしり詰まった お菓子だけが カラフルに笑い
工具など ひとつもなく
しかも 隣に立っていたお客さんに しっかり目撃されてしまった
私は カバンから ようやく視線を お客さんに向けると
お客さんも カバンから 私に視線を合わせ
双方 全く違った意味合いの沈黙
「カバンが軽いので おかしーなーとは 思っていたんです」
『はぁ』
「もし よろしければ 一緒に 召し上がりませんか?」
この後 私は お客さんと お菓子だけ食べて
堂々と帰ってきた
山の手線の中で 座れたばかりに うっかり ウタタ寝をしてしまい
こんな夢を見て ガバっと起きて ちょうど 池袋
慌てて工具カバンを抱えて 電車をダッシュで 降りるのだが
そのカバンの 重たかったこと 嬉しかったこと
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