タクシーに乗って (下)
21時に飛行機は 成田に到着した
人気が無いのに いつも行列している 入国審査を経て
間の悪い 列車の乗り継ぎを繰り返し
最寄駅に着く頃は すでに 0時近くになっていた
最寄駅から タクシーに乗ろうと思って
ふと 思い出してしまった
そうだ 財布には 1万円札しか入っていない
私は 理由もなく
タクシーの運転手に 万札を支払うのは 迷惑な行為だと思いながら
それでも タクシーの前に立つと 自動ドアが開いた
「すいません 1万円札しかないのですが よろしいですか?」
私は 恐縮していると 不思議な敬語を使う癖がある
『ああ 大丈夫だよ』
そして トランクを開けてくれて 20キロのスーツケースを入れた
一人でも出来たのだが わざわざ 手伝ってくれて
私は ますます恐縮して ちょっと 申し訳ないモード全開になってしまった
細かい札もなく しかも 積み込みまで 手伝わしてしまった
彼は ここまでも そして まだ これからの時間も
ハンドルを握り続けるのだろう・・・ あぁ すまない あぁ すまない
自動ドアが閉まると 車内は ひっそりと冷房が聞いていた
しかし 運転手は 車を出す気配がない
ハテ・・・
『お客さん どこまで?』
ああ そうだ 目的地を言っていなかったのだ
あぁ はずかしい あぁ はずかしい
「家まで」
・・・
『家って どこまで行けばいいの?』
・・・
私は 最初 この言葉の意味が 分からなかったのだが
3秒ほどして とてつもない発言をしていたことに気付き 赤面した
「あ すいません 花ノ木幼稚園前まで 宜しくお願い致します」
私は 終始無言で モジモジしながら 到着を待った
申し訳なさと 恥ずかしさで 「お釣りは結構です」 などと言いたかったが
なんといっても 1万円札である・・・
Uターンして 駅に戻るタクシーのテールランプを
私は 深夜の街に ゴロゴロと迷惑な音を発しながら スーツケースを引き
心の中で 何度も詫びながら 見つめていた
今度 タクシーに乗る時には
120円くらいのガムでも コンビニで買って
二度と 万札で恐縮することがないようにしようと 心に誓った
この日 乗った ふたつのタクシーで
私は まさに 天国と地獄を 味わってしまった
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Comments
自分はそんなとき、ICOCA(そっちはSUICAかPASMOですかね?)1000円分チャージします。自販機でお釣りは出るし、マイナスは無いし、150円のジュースをキオスクで買って嫌な顔もされないで済みますからね、、、
Posted by: くった | 09. 08. 27 PM 6:38
Dear くった
なるほど・・・ さすがだ!
そういえばさ タッチパネルが難しいくらい
指が大きいってことはさ
きっと 鍵盤楽器も ひとつの音だけ 出せないのかな?
Posted by: 某閑人 | 09. 09. 07 AM 7:39