小雨の渋滞
小雨が降っている
仕事を終えて 駐車場まで 小走りで向かう
エンジンをかけて 滲み始めた視界を ワイパーで振り払う
幾つめかの交差点で ルームミラーを調整する
車に乗るたびに ルームミラーの高さを 少しいじっている
朝と夜で 自分の身長が これほど違うものかと 苦笑する
この分だと 毎日が朝だけだったら
いつか ガリバーになってしまうだろう
夜も ちょっとは ありがたいものだ
ブレーキランプが 果てしなく続く幹線道路
いつものことだが 渋滞は 気分を3割ほど重くする
心は加重されると 苛立ちを孕むようだ
突然 大きな外車が 強引に割り込んできた
高級外車の前では 軽自動車は 減速すると
教習所で 習ったかのような 信仰心だ
イライラしながらも かすかに 感心してしまう
そういえば 高速道路で渋滞していて
平気でロカタを 突っ走っていくのも だいたい 外車である
金持ちと 品格は 反比例するのだろうか
いや 貧乏であっても 品格の無いドライバーが
ドアの窓に映っていたので 妄想の暴走にブレーキをかける
あの強引な割込が 自分に出来ないのは ただ 勇気の有無の問題のようだ
三ツ矢サイダーのようなエンブレムがついた その車のドライバーを
ソウルの街中で走らせる妄想に ギアチェンジしてみる
恐らく すっかり萎縮することは 間違いないだろう
どこからか 緊急自動車のサイレンが聞こえてくる
窓を開け 音源を捜す
首を伸ばして まわりを クルクル見回す
どうやら 後方から 救急車が近づいてきているようだ
周辺にも 状況把握の波が 静かに伝わったらしい
渋滞の僅かな車間を利用して 前方から
ドミノ倒しのように 車が左右に分かれていく
救急車のサイレンは 「どいてくれ どいてくれ」と悲痛に聴こえる
そして 紅海を渡るモーゼのように 車列の中央を 慎重に抜けていく
通り過ぎて サイレンの音は 「ありがと ありがと」と 言っているようだった
音程は 気持ちにまで ドップラー効果を及ぼすようだ
ふと気付くと 三ツ矢サイダーの運転手も
必死に車を 左に寄せていた
車幅が大きいせいか 苦心したようだ
なんだか その動きは 少しだけ滑稽で
そして よく分からないんだけれど 少しだけ嬉しくなった
それは うまく言えないんだけれど 少しだけ優しい気分にしてくれた
ふと気付くと 雨が止んでいた
西の空は 重い雲の隙間だけ 真っ赤に染まっていた
そこから溢れた光たちが 放射状に伸びていく
侠気は 気持ちにまで チンダル現象を及ぼすようだ
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