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07. 10. 20

カルピスの秋

調律屋なら 誰でも経験があると思う


お客さんの家に行くと
「どうぞ お気使いなく」と 申し上げても
お茶やら 御菓子で もてなして下さる


調律師の中には 好き嫌いがハッキリしていて
あれは食えない あれは飲めない という人もいるが
杣の場合は そうしたものが無いので たいてい 御馳走にあずかる


杣は ピアノの前に通されると
挨拶もそこそこに いきなり 音を出して パネルを分解し始める
なもんで お客さんには さぞかしセッカチな人間に 映っていることだろう


なもんで 温かい飲み物など 準備して下さってる時には
「ここに 置いておきますので どうぞ・・・」と
かえって 気を使わせてしまうのだが・・・ ちょっと ニヤリとする


杣は 猫以上の 猫舌で
もし 作業開始前に 熱いコーヒーなど 飲まなければいけない場合
へたすると 15分以上 時間を無駄にしてしまう


そんなワケで 割り振りをして 低音が終わったあたりで
冷めて 飲みやすくなったコーヒーを ガブリと一気にあおり
カフェインで冴え渡った耳が 高音で生かされる


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


作業が終了すると 今度は ゆっくりと
お茶をいただきながら 近況を話し合って
すごすごと 退散していく


さて 問題は この 作業後の「お茶の時間」である


ある時は 熱いコーヒーと みすヾ飴という もてなしを受けた
お年寄りの中には この 長野名物 「みすヾ飴」ファンが 意外に多い
なもんで これは 絶対に完食しなければならない


しかし みすヾ飴は 以前 サシ歯が取れたこともあり
キャラメルや ヌガーの類と同じく
食べる時には 緊張の咀嚼か 一気に丸呑みという作戦をとらざるを得ない


ある時は 冷たいコーヒーと 冷たいスイカという もてなしを受けた
午前の作業が終わり 空腹に 冷たいコーヒーとスイカは
虚弱な杣の胃袋を 見事に崩壊してくれ 普段の鍛錬不足を反省したものだ


小袋に入っている 長持ちしそうな御菓子は
まあ 手をつけずにおいても 迷惑をかけないと思うのだが
ナマモノや ケーキは きちんと馳走に与るようにしている


なもんで 最近 ダイエットをしている身には
時々 キリシタンにとっての踏み絵のように 心が葛藤するのだが
まあ 根が食いしん坊なので 馳走に与り 帰宅してから ジョギングをする


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


お年寄りは こちらが恐縮してしまうくらい 丁寧にもてなして下さり
遠慮ではないのだが 遠慮と判断されてしまい
ここで 断っては 申し訳ない・・・ と感じてしまう 優しさ攻撃を受ける


ある夏の日 作業が終わると 居間に通され
「ナニも無いですが 冷たいモノをどうぞ」と
おばあちゃまは ニコニコとして カルピスを出してくれた


氷が浮いて 汗をかいたかのように結露した ガラスのコップには
いつになく 透明度が低いカルピスが なみなみと注がれていた
氷が溶け出したら 表面張力の限界を超え 決壊するのは歴然としている


無作法と知りつつ こぼしては もっと失礼だと思い
グラスに右手を添え 口を ググっとグラスに持っていき
音をたてないように 最初の一口を 吸引力のみで すすり上げた


ああ 本物のカルピスだ!


いや 本物すぎるカルピスだ!


恐らく おばあちゃんは 自分では カルピスを飲まないのだろう
グラスに入ったカルピスは 原液だった
これが 100%無添加のカルピスである


俳優にもなれるくらい 自称演技派の杣は
それでも 座卓の向こうに対峙した おばあちゃんに笑顔を向け
「今年も 暑くなりそうですね」 などと 心でむせながら 会話を始めた


しかし 氷は こういう時に限って 容易に溶解しようとはしない
キンキンに冷やした カルピスの原液の中で
氷は ゆっくりと あざ笑うかのように カラーン などと 呑気な音を立てる


仕方ない 
このおばあちゃんの好意に なんとしても 応えなくてはならない


なもんで 一気にあおって グラスを空にした!


ヘヘヘ どんなもんだい!
オレだって やりゃーできるぜ ベイベー
今頃 カルピスは 胃の涙が希釈してくれていることだろう ・・・ゲッップッ


完全なる勝利を確信した 杣であったが
世の中とは カルピスほど甘くはなかった


「あらまあ 喉が渇いてらしたんですね
 さ さ もう一杯どうぞ!」


おばあちゃんは そう言いながら 
コラーゲンとカルシウムが不足しているかのような 膝の痛みに耐えながら
立ち上がり カルピス・ロックの おかわりを 持って来てくれた


もちろん 飲んださ


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


余談だが 「初恋の味」というキャッチフレーズの カルピスだが
原液は 初恋どころではない


例えるなら 不倫のあげく 痴話話がもつれ
刺し殺されるような ドロドロとしたものである
初恋とは こうした可能性を 希釈したものなのかも知れない


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


自分が年寄りになったら 
ボケたふりして やってみたいイタズラ集に 
このカルピス作戦を付け加えた


その時まで カルピスの原液が 
販売され続けていて欲しいと
願わずにはいられない

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Comments

「おばあちゃんを悲しませまい!」との
心根ひとつで 原液2杯イッキとは・・・
みあげた心意気に打たれました

Posted by: 笛吹きちゃん | 07. 10. 20 at 오후 9:54

もう一杯で
久々に大笑い!
背中のコリが和らぎました。

Posted by: 440 | 07. 10. 21 at 오전 7:58

カルピス、好きすぎて、子どもの頃原液飲んだことあります。
叱られました(笑)。
コーラと間違えて醤油を飲んだ友人がいましたが・・・それよりはマシかと。
もしかしたら、かのおばあちゃまは、全てお見通しだったのかも・・・
しかも実はそれは何かの試験だったりして・・・
そしてその試験に通ったら、何か得体の知れない力が与えられたりして・・・
(ん〜、コントの見過ぎか)

蛇足ですが、最近コンビニで売っている「プレミアム・カルピス」が美味でした・・・

Posted by: saskia1217 | 07. 10. 25 at 오후 11:42

おひさです。カルピスって、小学生のころは好きでしたが、中学生になって○○○○を覚えてからはちょっと……。久しぶりの下ネタで失礼しました。

Posted by: あら、まっちゃん | 07. 10. 30 at 오후 2:43

「カルピスの原液は俺様の味」ブホッ!

Posted by: CM | 07. 11. 06 at 오전 7:27

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