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07. 08. 23

ネクタイをしめて 完

アルコールがはいると 周囲の年配の調律師は 饒舌になっていった
互いの 思い出話は やがて 自慢話になり
親子ほど年の離れた杣は かっこうの餌食になり 何故か説教までされた


不愉快だった


慣れない正座は 足の痺れを 通り越して 感覚が麻痺していた
ビールも ほとんど 飲まなかった
今夜は 恩師に お別れの挨拶をしにきたのに!


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


杣は 卒業後 浜松に行き そして東京に戻り
音大の調律事務室に 勤務していた
そして 学生時代の夢だった 日本ピアノ調律師協会の試験に 合格した


(自動車教習所も イカサマ卒業であったが
 実は この日ピの試験も 非常に微妙な合格だった・・・
 ま 今はまだ それは封印しておくとしよう)


合格してから まもなく 恩師から小包が届いた
年始の挨拶はおろか 合格の報告もしていなかった 恩知らずの杣は 驚いた
それは ピアノの歴史の本だった

Onda


当時の杣は テングになっており
調律師協会に入会しただけで イッチョマエだと勘違いして
音大を辞め 独立して もうひとつの夢を達成した


そして 母校の調律学校の 非常勤講師のオファーを受け
再び 恩師に再会する機会に 恵まれた
恩師は 昔のまま 穏やかな笑顔だったが 杣は テングだった


恩師とは 曜日こそ異なるものの 同じ教壇に立ち
講師の定例会などで 顔を合わせ 1年が過ぎていった


当時 杣は 旧態依然とした カリキュラムを壊そうと考えていた
もっと 合理的に 論理だった学科の 内容を教えなければダメだ
生意気にも 恩師達に 反旗を翻して 自分のやり方だけが正しいと思っていた


2年後 恩師を含む ベテランの講師陣が 学校を辞めた
若返った講師陣だったが 杣も 数年後 学校を辞めた


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


恩師に最後に会ったのは 恩師の自宅だった
「せんだって うちの娘が・・・」 の お嬢さんは
一級建築士になり 恩師の家を 新築した


新築の家には 恩師らしい 清潔な工房があり
その工房で 作業中だった ピアノは
これまた恩師らしく 丁寧な仕上がりを みせていた


母校の講師同士としての 気まずい別れがあっただけに
ギクシャクした気分で 素直に 謝ろうと思って赴いたが
恩師は 昔と変わらない 人懐っこい笑顔で 迎えてくれた


杣のアジトと 恩師の家は 比較的近くにあったため
「また 遊びに来ます」と 半ば本心で 挨拶をした
恩師は 『いつでも おいで』と 笑顔で言ってくれた


あれは 何年前のことだったろうか
あれが 恩師と会った 最後になる


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


正座して 恩師の写真に 
謝罪と 感謝を 心の中でつぶやいた
そして さよならを ようやく言うことができた


すると 周囲の年配の調律師達の喧騒が
それまでと違って
賑やかに 恩師を送っているんだ ということに 初めて気がついた


早々に 挨拶をして 座敷を後にする


電車に乗って イヤホンから流れてきたのは
何故か スティングの イングリッシュマン・イン・ニューヨーク
窓に映った自分は ネクタイをしていた


うん きちんとした 調律屋になろう
時々は ネクタイをして 仕事をしよう
先生 オレ 頑張るからね!

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Comments

またいつか会える。
そう思いながら会えなくなった方たちが年々増えていくんですよね。
後悔しないようにひとつひとつの出会いを大事にしていきたいです^^

Posted by: Chihaya | 07. 08. 23 at 오후 9:02

センセイはとっても喜んでいらっしゃる筈!
イングリッシュマン・イン・ニューヨーク、
まるでセンセイを彷彿させるような
イメージの曲ですね


Posted by: fuefuki_rose | 07. 08. 23 at 오후 9:04

某閑人さんのお話には、音楽がよく似合いますね。
イングリッシュマン・イン・ニューヨーク、この場面には、ぴったりくるメロディーですね。

Posted by: ichigokko | 07. 08. 25 at 오전 4:14

To Chihaya
そうだね 年をとるって そういうもんだよね
知り合う人が 多くなるぶん
別れる人も 多くなって・・・
なもんで 杣は 人とは あまり仲良くならないように
日ごろから 鍛錬しております


To fuefuki_rose
先輩や 恩師に 感謝を示すことって
言葉とか 贈品でなくって
がんばり続けることなんだと 思ってます
でも 本当に頑張ってることって
表には 出てこないから
高い空から 叱咤してもらいながら
ひっそりと がんばっていたいなー


To ichigokko
携帯に 録音してある曲が
まだ 少ないので
この日は 随分 偏った音楽ばかりでした
が 
いちいち 心情と 曲が マッチしやがって・・・
これからは もっと ワイドな選曲になりますぜ!
パフィーとか ピエール・アンタイとか・・・

Posted by: 某閑人 | 07. 08. 25 at 오전 8:30

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